研究概要 |
重金属および有機物質のヒトの生体負荷量とその影響関係を血液および尿中濃度より解析し、有害物質のヒトに対する初期の危険度を評価すること、すなわち生物学的モニタリングを行うことの意義は大きい。そのためそれぞれの重金属や有機物質およびこれらの物質の影響を受ける代謝物の“正常値"とその生物学的な変動要因である概日リズム(サ-カディアンリズム)、日間変動、尿量の影響を検討した。鉛などの特定の重金属取扱い作業者を除く一般健康男子を対象とした。予め研究計画内容を説明し同意を得た、腎疾患および貧血の既往のない19名(年齢22ー57歳,血中鉛5.2ー11.2μg/dl)であった。以下の成績をえた。(1)重金属と有機物質の尿中のサ-カディアンリズムが、水銀(Hg)を除く鉛(Pb),クロム(Cr),マンガン(Mn),カドミウム(Cd),亜鉛(Zn),銅(Cu),砒素(As),錫(Sn)の8種類の重金属と馬尿酸(UA),δーアミノレブリン酸(ALA),コプロポルフィリン(CP),クレアチニン(Cn)の4種類の有機物質で認められた.Cnは尿量(UV)のサ-カディアンリズムとは異なり糸球体濾過のリズムによった。(2)尿中Cnおよび諸物質の尿中排出量とUVよりシュミレ-ション法で血漿中濾過型濃度を推計し、諸物質の腎排出機序に関与するとされる遠位尿細管と集合管による再吸収、糸球体濾過および諸物質の血漿中濾過型濃度の3つの要素と諸物質のサ-カディアンリズムの関連を分析した結果、カドミウム、マンガン、亜鉛、馬尿酸の尿中排泄のサ-カディアンリズムは血漿中濾過型濃度と糸球体濾過のサ-カディアンリズムに依存していた。しかしその他の物質は尿量の影響もみられ、遠位尿細管と集合管による再吸収のリズムも関与する重複機序が考えられた。Hgはこれらの腎排出機序が関与しなかった。(3)尿中Cnは24時間UVの日間変動と異なった。尿中Pb,Cr,Cu,As,SnとALA,CPの日間変動はCnとUVの影響がみられ、一方Mn,Cd,ZnおよびHAの日間変動は尿中Cnの影響のみがみられ、これらの物質に糸球体濾過の関与がおおきいといえる。従ってこれら物質の生物学的モニタリングに濃度補正したクレアチニン補正値を用いることの意義はおおきい.(4)赤血球の酵素活性であるδーアミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)とピリジン5'ヌクレオチダ-ゼ(P5'N)活性の日間変動はなく、尿量および飲水制限負荷による血液の濃縮や希釈に影響されなかった。各重金属の初期の生体影響の評価にALAD活性ともにP5'N活性を用いることの意義はおおきい。
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