研究概要 |
肝炎から肝硬変さらに肝癌へと進行する過程で肝細胞は壊死と再生を繰り返す。この間に細胞増殖や分化に関連する遺伝子とその発現に何らかの異常が生ずるものと思われる。肝炎ウィルス遺伝子,特にB型肝炎ウィルスX遺伝子はそれらの遺伝子の発現に何らかの役割を担っている可能性が強い。そこで肝細胞の増殖や分化の調節に関与するシグナル伝達系が肝癌細胞ではどのような状態にあるかを解析した。 B型肝炎ウィルスDNAが組み込まれているPLC/PRF/S細胞はCキナ-ゼ活性化剤である発癌プロモ-タ-テレオシジンによりCーfosの発現が一過性に誘導される。細胞をテレオシジンとともに長時間培養すると細胞増殖は抑制され,細胞形態は著明に変化する。細胞質をカラムで分画しCキナ-ゼを測ることにより3つのサブタイプが存在することが明らかになった。そのうち2つはテレオシジンと長時間の培養でdown regulateされるが他のひとつはdown regulateされなかった。従って早期に一過性にみられるテレオシジン作用はdown regulateされるプロティンキナ-ゼによると考えられ,down regulateされたりCキナ-ゼ活性は細胞増殖抑制や形態変化の誘導に関与するものと推測された。 テレオシジンにより誘導される形態変異は,核トポイソメラ-ゼが阻害剤であるノボビオシンや,細胞質のカルシウムを増加させるタプシガルジンで一部抑制された。従って,テレオシジン作用のカスケ-ドにはリン酸化以外にも核蛋白のアセチル化による化学的修飾,カルシウム感受性酵素など,いくつかの異なる機序が含まる可能性が示唆された。 B型肝炎ウィルスX遺伝子の発現ベクタ-をこの肝癌細胞に移入し,これらのCキナ-ゼ関連のシグナル伝達系がどのように変化するかを解析中であるが,現在までに十分な結果は得られていない。
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