研究概要 |
原発性胆汁性肝硬変(PBC)に特異的かつ高頻度に出現する抗糸粒体抗体(AMA)の対応抗原であるpyruvate dehydrogenase(PDH),branched chain keto acid dehydrogenase(BCKD),α keto acid dehydrogenase(KGDH)の各E_2 componentを精製し,PBC患者血清68例について各抗原に対する抗体出現動態をEIA法により検索した。その結果,PBC患者の95%にいずれかの抗体が陽性となり,本抗体測定の診断的意義が高いことが明らかになった。さらに本症の臨床的検査成績,経過,予後との対比を行うと,PDH抗体の陽性例は陰性例に比し病態が増悪,進行することが認められた。従って本抗体の測定は予後の推定に有用な指標となることが明らかとなった。一方,超音波処理を行った大腸菌の有する蛋白をSDS pageに泳動後ニトロセルロ-ス膜に転写したものに,肝疾患患者血清を反応させたところ。PBC患者血清のみが110KD付近に抗体反応を示す事実を確認した。そこで,大腸菌lysateを家兎の皮下にFreund adjuvantとともに計3回接種後その肝蔵を組織学的に検索した。その結果,肝臓の門脈域にリンパ球を主とする細胞浸油ならびに小葉間胆管の破壊像を認め,PBCの実験モデルになりうることを立証できた。これら一連の研究結果は,PBCの発症の契機に大腸菌感染が何らかの役割を果している可能性があることを示唆しており,今後PBC患者血清が反応する大腸菌内の蛋白成分の本態を明らかにすることが大きな課題となり,本症の原因解明がさらに進むことが期待できる。またPBC患者血明のIgEが特に低値を示す事実を確認しており,細菌感染とそれによるIgE特異的サプレッサ-T細胞機能増強の関係が本症の病態をさらに明確にしうると考えられた。
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