研究概要 |
薬物代謝系酵素の1つであるglutathione Sーtransferase(GST)のヒト肝における分布様式を免疫組織化学的方法により検索した結果、とくに原発性肝癌腫瘍マ-カ-の観点からGSTの意義を明らかにしえたため、研究成果を学会誌「肝臓」に発表した。以下概要を述べる。 正常肝,非特異的肝炎,うっ血肝,肝硬変,原発性および転移性肝癌材料のホルマリン固定,パラフィン包埋の薄切切片について,抗ヒトGSTーπポリクロ-ナル抗体を用いて酸性GSTを,抗上ヒト塩基性GSTポリクロ-ナル抗体を用いて塩基性GSTを,間接酵素抗体法で検出した。その結果、酸性GSTは正常肝では肝細胞には陽性を示さず、門脈域の胆管上皮細胞や細胆管上皮細胞の細胞質の陽性を示し、肝炎やうっ血肝でも同様であったが、肝硬変ではいわゆる偽胆管も陽性を示した。癌組織では大多数の胆管細胞癌とくに分化型に陽性を示したが、ほとんどの肝細胞癌と半数の転移性肝癌には陽性を示さなかった。一方、塩基性GSTは正常肝では肝小葉内にほぼ均一に、肝細胞の細胞質と一部の核に陽性を示し、また胆管上皮細胞にも一部陽性であった。肝炎やうっ血肝でも同様であったが、肝硬変では偽小葉内での陽性反応は不均一となり、偽小葉によっては極めて減弱していた。またいわゆるliver cell dysplasiaでは陽性反応は減弱ないし陰性化する傾向にあった。また偽胆管でも陽性反応の減弱傾向がみられた。癌組織では過半数の肝飽胞癌で陽性であったが、その多くは比較的弱い反応であった。 以上より、酸性GSTは原発性肝癌にうち胆管細胞癌のよい免疫組織化学的腫瘍マ-カ-になることが明らかとなった。一方塩基性GSTは腫瘍マ-カ-としての意義にい乏しいが、肝細胞癌の前癌病変解析などのマ-カ-になる可能性が示唆された。
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