研究概要 |
慢性膵炎および粘液産生膵腫瘍患者に膵炎症状の発生は膵液中の粘液蛋白質濃度の増加と膵液粘稠度の上昇による液出障害と密接関係している。本年度の研究はこのような病態を有する膵炎症例に対し、粘液溶解剤である塩酸ブロムヘキシンの治療効果を検討した。また,塩酸ブロムヘキシンの膵に対する作用については実験的に検討を行った。〔方法・結果〕基礎的検討:(1)塩酸ブロムヘキシンの膵液への移行性については、雑種成犬(4頭)及びラット(24匹)を用いて,塩酸ブロムヘキシン(犬:8〜80mg/30min,ラット:0.5〜4mg/hr)を持續静注,経時的に膵液を採集し,膵液中の塩酸ブロムヘキシン濃度を測定した。なお、犬膵の粘稠度も測定した。その結果,犬およびラットのいずれの膵液中にも塩酸ブロムヘキシンが検出されなかった。塩酸ブロムヘキシンの投与による犬膵液粘稠度の変化も認められなかった。(2)塩酸ブロムヘキシンの膵組織への移行性については,ラット26匹に1±10mg/kg・BWの塩酸ブロムヘキシンを静注し,経時的に膵を摘出した。現在膵組織中の塩酸ブロムヘキシン濃度を測定している。臨床的検討:(1)粘液産生膵腫瘍に膵炎症状が頻発した1症例に塩酸ブロムヘキシンを役与し,自,他覚症状の改善,血清膵酵素の正常化および膵液粘稠度の著明な低下が認められ,1年2カ月の観察期間では再発が認められなかった。(2)慢性膵炎5例に塩酸ブロムヘキシン24mg/日を投与し,自、他覚症状,血清膵酵素の変動について検討した。半年の観察期間中では症状再燃の症例が認められなかった。〔結論〕犬およびラットでは塩酸ブロムヘキシンの膵液中への移行性が認められなく,塩酸ブロムヘキシンによる犬膵液粘稠度の変化も認められなかった。粘液産生膵腫瘍に伴う膵炎では良好な治療および再発予防効果が認められた。慢性膵炎では半年の投与期間中では再燃の症例がなく、塩酸ブロムヘキシンの膵炎発症の予防効果が示唆された。
|