研究分担者 |
酒井 秋男 信州大学, 医学部附属心脈管研究施設, 助教授 (70020758)
上田 五雨 信州大学, 医学部附属心脈管研究施設, 教授 (10020702)
関口 守衛 信州大学, 医学部, 教授 (70075232)
久保 恵嗣 信州大学, 医学部, 講師 (80143965)
小林 俊夫 信州大学, 医学部附属病院, 講師 (80020775)
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研究概要 |
本研究は主として以下の2つの観点から行われた.1)急性高山病と呼吸調節障害;低地居住の健常男性を対象として人工気象室を用いて24時間の高地環境暴露実験(3,700m)を行った.その結果,24時間後に比較的高い高山病スコアを呈した群(AMS++)では,高地到達直後における換気増大反応が小さく,より強い低酸素血症を認め,あらかじめ平地で測定した低酸素換気応答能(HVR)も低値であった.このことは,HVRの低いことがAMSの発症の要因のひとつであることを示唆する重要な結果と考えられた.2)高地肺水腫(HAPE)と呼吸調節;HAPE既往者においてはHVR,HCVR(高炭酸ガス換気応答)いづれも高山病の既往のない対照群に比べ有意に低下していた.この低いHVRが,HAPE既往者の高地環境暴露(3,200m,515Torr)における換気増大反応にどのような影響を及ぼすかについて検討した.その結果,到達直後において既往者群では高山病の既往のない対照群に比べ,換気増大反応が弱く,相対的肺胞低換気とより強い低酸素血症を示すことが,呼気ガス分析と動脈血ガス分析などにより確かめられた.さらに,最も強い低酸素血症を呈した既往者の一例においては,かえって換気量が低下し,酸素投与にて換気量の逆説的な増加を示し,低酸素性換気抑制の存在も疑われた.HAPEは高地到達後2ー3日で発症することが多く,またHAPE既往者は高地暴露直後により強い低酸素血症を示すことも報告されており,HVRが低いことがHAPE発症の寄与因子のひとつである可能性を示唆する重要な結果と考えられた.3)今後の研究の展開について;今回の研究によって,HAPいないしAMSの発症における呼吸調節障害の関与の一端が明らかにされた.しかし解決すべき問題も新たに提示された.すなわち単なる安静時の呼吸調節異常のみならず,睡眠や運動時の呼吸調節,脳浮腫を含めた肺ー脳相関,低酸素性換気抑制などとの関連性を検討していく必要があること,高地順化中のHVRの方化,さらに呼吸調節障害の概念に基づいたHAPEやAMSの予防に関する検討である.今後この分野におけるさらなる発展が期待される.
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