研究概要 |
DNA障害モデル動物の作製;生後6日の授乳期ラットの腹腔にBromodeoxyuridine(BrdU)を1mg/g体重あて投与,2日後にThymidineの過量投与を行った。その後通常に飼育し生後2週,8週,15週目に屠殺し,肺の生理学的,形態学的観察を行った。週令をマッチさせた対照動物との比較では,BrdU投与2週目では肺の構築や機能には変化がみられなかったが,8週令,15週令のBrdU投与動物の肺では気腔の異常な拡大がみられ,機能的には肺のcomplianceが高いことが知られた。しかし気道口径には特に異常が認められずBrdU投与によっても気道系は正常に発育することが知られた。以上より生後まもない時期にBrdUにより短期間(2日以内)DNA障害を受けた動物はその後授乳期の終了する時点では肺に特に形態学的・機能的変化がないにもかかわらず,成獣に達した生後8,15週には肺気腫様の変化を示すことが知られた。BrdU抗体により染色された細胞は主として肺の間質(細胞)に認められたことから,BrdUを取り込むことによりDNAに障害がもたらされた間質細胞が正常な結合織成分を産生することができないために肺の構築異常が生じたものと推察される。 BrdU投与動物における喫煙暴露の影響;上記の方法によりBrdU投与によりもたらされた肺気腫様の変化に喫煙障害が加わった場合,いかなる肺の形態変化がもたらされるか否かについて検討が行われた。生後6日にBrdU投与された動物が8週令になった時点から2ヵ月間連日喫煙暴露を行った。その結果,喫煙暴露を行った動物の肺では光顕的には対照動物に比し特に変化は認められなかったが,走査電子顕微鏡による観察では肺腔孔が著しく増加しており,人肺の肺気腫の初期像に酷似した変化が観察された。以上から生後間もない時期に障害を受けた肺は喫煙に対し易障害性となっていることが推測された。
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