研究概要 |
1.慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO) CPEO患者28人中22人にmtDNAの欠失を認めた。ただ欠失したmtDNAの大きさ,部位,量と臨床症状,生化学異常の程度とは相関がなかった。欠失mtDNA量とcytochrome c oxidase(CCO)欠損線維との数には相関があった。さらに筋線維ときほぐし標本ではCCO欠損は節状に分布し,その長さと変異mtDNAの量とも相関があった。変異mtDNAがCCO欠損と密接に関係することが推定された。培養系ではCCO(+)と(-)の2種の筋管細胞が得られた。この全か無か(all or none)の現象は閾値説(変異mtDNAが1個の細胞内で,ある閾値を超えた時細胞はその機能を失い,それ以下の時は正常mtDNAが代償するため何らの機能障害をみない)を証明したこととなった。ρ°細胞を使った実験では変異mtDNAが60%を超えると細胞のCCO活性は消失した。 2.メラス(mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis,and strokeーlike episodes) MELASの患者の約80%にはmtDNA3243番目のA→G変異があることを見出した。さらに残りの10%では3271番目にT→C変異があることも明らかにした。また生検筋内にはSDH染色で濃染するstrongly SDHーreactive blood vessels(SSV)が存在することを明らかにした。このSSVは電顕的には小動脈の平滑筋内のミトコンドリアの増加があり(平滑筋のミトコンドリア異常),そのため中枢神経系では卆中様症状をみるのではないかと考えられた。 3.ミオクロヌスてんかん(myoclonus epilepsy associated with raggedーred fibers:MERRF) MERRFでmtDNA8344番目にA→G変異を持つ6例の生化学的,組織化学的分析を行った。すべての症例でCCO部分欠損を認めた。またSSVも高頻度(5例)に認めたが,MELASのSSVがCCO陽性であるのにMERRFのそれらは陰性であった。この酵素欠損の差が卆中様症状の発生を左右する可能性が考えられた。
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