研究概要 |
血管平滑筋ミオシン重鎖(MHC)には一遺伝子からRNAスプライシングの差によって2種類のアイソフォ-ム(SM1とSM2)が産生されることを我々は示してきた。この2種類のMHCの発現は血管発生の過程で異なる調節をうけている。我々は胎児・新生児期大動脈にはSM1,SM2とは異なる第三のMHCが大量に存在することを見出した。そこで本年度の研究ではこの胎児型平滑筋MHCの分子特性と、血管発生、平滑筋分化および血管病における分子マ-カ-としての意義を明らかにすることを目的とした。まずウサギ胎児大動脈よりcDNAライブラリ-を作製し,胎児型MHC(SMemb)のcDNAクロ-ニングを行った。得られた塩基配列よりアミノ酸配列を推測、SMembに特異的なペプチドと抗体を作製した。この抗体を用いてSMembの発現を組織学的に検討すると,SMembは胎児・新生児期に強く発現し,以後減少することが明らかとなった。さらにバル-ンカテ-テルによる内膜損傷と高コレステロ-ル食負荷によって2種類の動脈硬化モデルを物製したところ、新生内膜で増殖する細胞は胎児期平滑筋にきわめて類似した表現型を示した。 以上の結果は、胎児型MHC(SMemb)が平滑筋の細胞分化だけでなく,血管病変を病理学的および生化学的に診断する分子マ-カ-としての役割を有していることを意味し、同時に平滑筋細胞の胎児型細胞への先祖返りが動脈硬化発生の一要因となっていることを明らかにしている。
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