研究概要 |
血管平滑筋収縮・弛緩の分子機構において,重要なもの1つとされているミオシン軽鎖リン酸化反応において,その脱リン酸化反応を触媒する酵素のミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)の精製,性状解析ならびにcDNAクローニングによるアミノ酸一次構造の解析を行った。ニワトリ砂嚢平滑筋より,アクトミオシンを精製し,アクトミオシンに存在するホスファターゼを50mMMgCl_2存在下に抽出し,DEAE-Cellulofine,heparin-Sepharoseおよびthiophosphorylated myosin light chain-Sepharoseの各カラムにより精製した。精製されたホスファターゼは,SDS-PAGE上,分子量38kDaの触媒サブユニットと58kDaのミオシン結合能を有する調節サブユニットの2つのサブユニットよりなっていた。抗体を用いた検討より,MLCPはタイプ1δホスファターゼ(PP-1δ)と考えられた。そこで,ラット肝RNAよりRT-PCR法によって作製したPP-1のcDNAをプローベに,ニワトリ砂嚢平滑筋cDNAライブラリーよりMLCPのcDNAクローニングを行った。10^5個のクローンをスクリーニングし,1.3kbのPP-1δのcDNAをクローニングした。その部分シークエンスを行ったところ,ラットPP-1δと86%のホモロジーを有し,ホモロジーよりreading frameを推測したアミノ酸配列では,100%の相同性を有していた。 以上,平滑筋ミオシン軽鎖ホスファターゼは,分子量38kDaの触媒サブユニットと分子量58kDaの調節サブユニットよりなり,ミオシン結合型PP-1δであることが明らかになった。cDNAクローニングより明らかにされたその部分シークエンスは,ラット肝より明らかにされているPP-1δと非常に高い相同性を有し,アミノ酸レベルでは100%一致した。今後,今回その存在が明らかにされた58kDa調節サブユニットの機能を含めこのホスファターゼの活性調節機構を検討することにより,平滑筋収縮・弛緩の調節における新しい分子機構を明らかにできると考えられた。
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