研究概要 |
近年,嘔吐,呼吸障害および意識障害を伴うアシド-シス発作,精神運動発達遅滞,けいれんなどが見られる小児患者の中から先天性高乳酸血症が相次いで発見され,注目を集めている。本症の原因としてはピルビン酸脱水素酵素(PDH)複合体の異常が最も多く見出されている。PDH複合体はPDH,リポ酸アセチルトランスフェラ-ゼ,リポアミド脱水素酵素,PDHホスファタ-ゼ,PDHキナ-ゼおよびproteinーXから構成されており,その活性はPDHホスファタ-ゼおよびPDHキナ-ゼによる脱リン酸化ーリン酸化機構により調節されている。PDH複合体異常の中ではPDH欠損およびPDH複合体活性化障害が多く報告されている。PDH複合体活性化障害の病因として種々の酵素異常が考えられるが,その主なものはPDHを活性化する作用をもつPDHホスファタ-ゼの欠損とPDHホスファタ-ゼの基質であるPDH蛋白質そのものの変異である。 本研究では,PDH欠損およびPDH複合体活性化障害による先天性高乳酸血症患者由来の培養皮膚線維芽細胞を用いてPDHホスファタ-ゼ活性測定,ウエスタン・ブロット法によるPDH蛋白質異常の検索およびDNA塩基配列決定によるPDH遺伝子異常の同定を行い,次の成果を得た。 1)PDH複合体活性化障害細胞にはPDH蛋白質の一次的な異常を有する細胞とPDHホスファタ-ゼの一次的な異常を有する細胞とがあることが推測された。2)PDH欠損細胞ではPDHのE_<1α>サブユニット遺伝子が変異しており(4塩基対の挿入),この遺伝子を鋳型にして生成される変異E_<1α>の蛋白質が正常E_<1α>のサブユニット蛋白質と結合してPDHを構成できず,容易に分解されるためにPDHが欠損することが明らかになった。
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