研究概要 |
ビタミンD依存性くる病II型は1,25(OH)_2ビタミンDに対する標的器官の受容体(VDR)に障害があり,乳幼児期に重篤なくる病,痙攣,成長障害,禿頭などを呈する。我々は本症が常染色体劣性遺伝性疾患であることを明らかにしたので,患者のVDR蛋白や遺伝子変異に関する分子遺伝学的解析を行った。日本人6症例のVDR蛋白およびmRNAのサイズおよび発現量は正常と差はみられなかった。また制限酵素で切断したゲノムDNAの分析でも患者のVDR遺伝子には大きな欠失や挿入はなかった。そこでVDR遺伝子の塩基配列を決定したところ,5症例ではVDRのDNA結合領域をコ-ドする第3エクソン内の140番目のGがAに変異していた。その結果,VDRが標的遺伝子と結合する部位を構成する47番目のアルギニンがグルタミンに置換していた。この変異部位はステロイドホルモン受容体ス-パ-ファミリ-の全てに共通する保存されたアミノ酸である。したがって,このアミノ酸はVDRとDNAとの結合に重要な役割を持っており,この遺伝子変異は本症の原因と考えられた。一方,同一遺伝子変異を呈する患者でも臨床症状および治療に対する反応性にかなりの差異が認められた。さらに治療中止後くる病は再発していない。以上の結果よりビタミンDのホルモン作用発現にはVDRに加えて核蛋白や環境因子が強く関与していることが示唆された。次に患者のVDR遺伝子の一塩基置換を簡易にスクリ-ニングする目的で,単鎖DNA高次構造変化検出法の有用性を検討した。正常対照と患者のパタ-ンは異なり明瞭に区別することができた。さらに患者の両親のパタ-ンは正常と患者の混合したパタ-ンを示し,保因者であることが示された。本法を用いて大規模のスクリ-ニングを行うことも可能であろう。さらに遺伝子変異が明らかにされていない症例における遺伝子変異部位の目安をたてるのに本法は有用と思われる。
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