研究概要 |
小児期に高度の肝硬変症あるいは肝線維症をきたす疾患の1つである胆道閉鎖症患児がその経過中に血尿やタンパク尿をしばしば呈することより,同症患児の術後の長期観察期間の臨床経過を検討し,90例中40例という高頻度で腎炎性尿異常を呈していることを明らかにした. 続いて28例の剖検腎組織の検討で,程度の差こそあれ全例で系球体メサンギウム領域の基質優位の増殖性変化を呈し,同部位へのIgAを主とする免疫グロブリンの沈着を明らかにした.二重染色にてC3が共存しており,これらは免疫複合体を構成していることが強く示唆された. 糸球体の組織変化は,肝の線維化の程度と良く相関しており,また臨床的には血清コリンエステラーゼ値の低下を肝の予備能の指標とすると,肝機能の低下してから死亡までの期間が,糸球体病変と相関を認めた.本症患児は逆行性胆管炎が肝機能の増悪因子と考えられているが,この既往がある症例では,尿細管及び間質の変化を伴っている傾向があった. 糸球体に沈着するIgAはIgA腎症や紫斑病性腎炎とは異なり,IgA2を多く含み,さらにsecretory componentの共存より消化管由来と推察された.同症患児における前視的検討では,閉塞性黄疸の還延している症例にて血清中のIgA型の免疫複合体が高値であった. 糸球体変化の強い症例でも血清クレアチニン値の上昇といった,腎機能の低下は明らかにはならなかった.各種検査のうち,尿中微量アルブミンが腎障害の早期発見のマーカーになりうると思われた.
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