研究概要 |
痙性麻痺を呈する横断性頚部脊髄症患者の四肢巧緻運動能力をより客観的に評価するために、小野らによる手の10秒テストに加え,われわれ独自の足関節および足指の10秒テストを考案し、これらが臨床的に有用な痙性評価法になり得るかを検討した。方法として、電気ゴルオメ-タを用い、手指,足関節,足指の最大努力運動達成回数と運動パタ-ンを記録した。得られたデ-タから,頚髄症群と正常群の比較,頚髄症群における10秒テストと日整会頚髄症判定基準との相関,頚髄症の術前術後の差の検討,手指運動パタ-ンによる頚髄障害レベルの検討を行ない,さらに対麻痺群における下肢10秒テストの有用性についての検討も行ない次のような結果が得られた。 1)頚髄症患者群は正常群に比べ有意に運動達成回数が劣っていた。2)頚髄症患者は正常群に比べ運動周期の不規則性,異常notchの出現を多く認めた。3)患者群において,手の10秒テストと下肢の10秒テストの達成回数は有意に相関した。4)患者群において,従来より広く頚髄症の臨床的評価に用いられている日整会頚髄症判定基準(上肢)と手の10秒テストは有意に相関するが,同下肢基準と下肢の10秒テストとは相関しなかった。5)手術前後で運動達成回数に有意な差は認められなかったが,運動パタ-ンでは運動周期の正常化,異常notch出現頻度の減少など術後改善が評価できた。6)手指屈伸運動バランスは,正常群で良好であるのに対し,頚髄症群では崩れた。7)手指伸展遅延を示すものは頚髄障害レベルが分散するのに対し,屈曲遅延を示すものは中位頚髄障害に多く認められた。8)不全対麻痺患者群では正常群に比べ下肢10秒テストの達成回数が有意に低く,異常な運動パタ-ンも高頻度で出現した。 以上のことから,上肢,下肢10秒テストは頚髄症や不全対麻痺に伴う痙性に起因する四肢巧緻性の評価に極めて有用であると結論した。
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