移植腎の拒絶反応にどのようなT細胞集団が動員されるのかを知ることを目的として、本研究では、腎浸潤T細胞の抗原レセプター(TCR)の多様性を解析した。研究は、大きく分けて次の3段階で進められた。すなわち、1)方法の確立、2)in vitroモデルでの検証、3)臨床材料を用いた解析、である。 【1.TCR解析法の確立】少数のT細胞から効率良くTCR-cDNAの解析を行うためには、PCRによる遺伝子増幅法が必須であるが、上流配列(TCRV遺伝子)が未知であるという問題点を克服する必要があった。種々の検討を重ねた後、cDNA上流に合成のanchorを結合させてPCRの標的配列として利用するanchor-ligated PCR法を開発した。さらにその後、V遺伝子共通プライマーを考案し、より簡便なTCR解析法も確立した。【2.混合リンパ球培養反応(MLR)に動員されるTCRの解析】同体免疫反応のin vitroモデルとして、MLRに動員されるTCRの解析を行った。その結果、1)刺激細胞・応答細胞間でHLA-DR分子上のたった1個のアミノ酸しか違わない場合も、極めて多様なTCRを持つT細胞集団が動員されること、2)DR分子のアミノ酸の違いによってTCRの多様性の程度に差は検出されないことが明らかになった。【3.移植腎浸潤TCRの解析】拒絶反応後の摘出腎が入手できた1例につき、コラゲナーゼ処理、パーコール比重遠沈法により浸潤リンパ球を回収し、さらにCD25^+(活性化Tマーカー)T細胞画分を分離し、CD25^+Tおよび未分画全浸潤細胞におけるTCRの多様性を検討した。その結果、CD25^+T細胞および未分画浸潤細胞とも上述のin vitro MLRで動員されたT細胞集団に比べ、明らかなオリゴクロナリティーが観察され、またその程度は、CD25^+Tにおいてより顕著に認められた。このように移植腎拒絶反応には、比較的限られたTCRを持つT細胞集団が動員されたことがわかった。
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