研究概要 |
ラミニンとIV型コラーゲンは、ともに基底膜を構成する非コラーゲン性およびコラーゲン性糖蛋白である。IV型コラーゲンは、分子量約30万で、3本のα鎖が、3重螺旋構造を形成しており、コラーゲン分子のN末端で4分子が、C末端で、2分子が重合して、網目状のnet workを形成する。特に、4分子が重合した部位は、7S-collagen domainと呼ばれ、分子どうしが多くのS-S結合を有し、種々の蛋白分解酵素に対して安定であることが解ってきている。 近年、悪性腫瘍の浸潤、転移の過程において、種々の細細胞外基質が重要な役割を果たすことが明らかになってきた。著者らは既に、腎細胞癌および前立腺癌患者における血清ラミニン濃度が高く、転移巣を有する群においてこの傾向が著しいこと、膀胱癌患者においては、転移巣を有する群においてのみこの値が高いこと等を報告し、血清ラミニン濃度が、悪性腫瘍の転移あるいは臨床経過の指標として利用しうることを示した。 今回は、ラミニンと同様に基底膜を構成する細胞外基質であるIV型コラーゲンのN末端に相当する7S-domainの尿路悪性腫瘍患者血清中における濃度を測定し、血清ラミニン濃度とともに転移の有無や臨床経過に強い相関があるのではないかという考えの下に、臨床的検討を加えその結果を報告する。 血清ラミニン濃度が、腎細胞癌、前立腺癌および転移巣を有する膀胱癌において各々1,66±0,57U/ml、1,60±0,28U/ml、1,94±0,38U/mlと高値を示したのに対し(正常コントロール群:1,35±0,19U/ml)、血清IV型コラーゲンの7S-domain濃度は、各々5,19±3,48U/ml、3,84±1,63U/ml、4,39±1,03U/ml、(正常コントロール群:4,21±0,76U/ml)といずれの腫瘍患者群においても有意の上昇が認められた。 悪性腫瘍の浸潤および転移の過程において認められる細胞底膜の破壊の結果として、血清ラミニン濃度が高値を示すのであれば、これと並行して、同様に基底膜を構成するIV型コラーゲン7S-domainの血清濃度も上昇することが予想されたが、両者の間には統計学的に相関は認められなかった。血清IV型コラーゲン7S-domain濃度は、血清ラミニン濃度ろ異なり、転移あるいは臨床経過の指標とはなりにくいとかんがえられる。
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