胎児仮死の循環の制御は、神経的因子または液性因子により行われている。またこれらの因子は循環のポンプとしての心臓と末梢、両者に作用する。このことは胎児においても同様であり、胎児仮死の際観察される血流の再配分もこのような因子によってもたらされる。特に末梢での循環の維持が心臓での調節のみならず、末梢固有の調節機序を持つ事が以下の実験結果から明かとなった。 在胎120ー135日の羊胎仔の血管へカニュレ-ションを行った後、大腿動脈へ、また開胸した後上行大動脈、肺動脈へ超音波血流計を装着した。心室壁にペ-シング電極を装着、心室中隔内の刺激伝導系に10%ホルマリンを注入する事により胎仔の完全心ブロックを作製した。ブロック作製により胎仔心拍数は168±30/分から81±15/分まで低下した。分時拍出量は60%の減少を示した。またペ-シングにより心拍数を180に戻し、徐々に減少させて行くと心拍数100までは1回拍出量は増加するが、それ以下では変化しなかった。分時拍出量は心拍数の低下と共に直線的に減少した。心拍数を段階的に減少した場合、胎仔の体血圧は20ー30秒周期の特徴的な変動パタ-ンを認めた。この血圧変動のパタ-ンは数分後に消失したが、心拍数を更に低下させると再びこのようなパタ-ンは出現した。このような周期性のある変動は薬物的に副交感・交感神経をブロックしても消失しなかった。従ってこのようなパタ-ンは末梢の血管の独自性に起因するものと考えられた。以上の現象は一旦胎児が心不全に陥った場合、末梢では血流を維持するための適応現象を表しているものであると考えられる。
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