研究概要 |
歯周ポケットから高頻度で分離されるPorphyromonas gingivalisは種々の病原性を有し成人の辺縁性歯周炎の発症と進行に密接に関わっている病原菌である。本菌は細胞への強い付着能を保有し,歯周局所に定着すると容易に排除されない。本研究はP.gingivalisが病原性を発揮するための第一歩である歯根膜等への付着機序を検討する事によって,実際subgingival siteでどのように歯周炎が進行しているのかそのメカニズムを解明するために検討を加えた。平成2年度の研究から同じP.gingivalisでも菌株によってbasemembrane component(collagen,fibronectin,laminin)への付着能が異なる事が判明した。しかもこの付着能は菌体表層の疎水性と相関性が認められた。さらに実験結果から非病原性株の方が付着しやすく病原性株の方が付着しにくい事がわかった。この付着性はproteinaseKや加熱によって消失してしまう事からタンパクであると考えられる。形態的な観察では多くの菌株には線毛が認められたがW83株だけには線毛が認められなかった。平成3年度は付着能の異なる菌株から線毛とvesicleを抽出して付着能について検討を加えた。その結度,各線毛の付着性は異なりしかもwhole cellと同様に疎水性とよく相関していることから,線毛がcollaen等への付着を担っていると考えられる。この事をin vivoに置き換えてみると一般に非病原性株は疎水性の高い線毛を保有し歯周局所に付着しやすい。しかしその一方で疎水性が高いためすぐにPMNに貧食されてしまう。対照的に病原性の高い菌株は疎水性の低い線毛を保有しているためなかなか宿主には付着しにくいがPMNに貧食されにくく歯周局所に居座り続け病原性を発揮すると考えられる。さらに,vesicleの付着性についても検討した結果,vesicle上には病原性,非病原性に関わりなく菌株共通なcollagenやpellicleへの付着因子が存在する事が判明した。この付着因子は易熱性であり,タンパクであると考えられる。このことから本菌の歯周局所への付着を予防するワクチンとしてはvesicle上の付着因子が有望だと考えられる。
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