本研究は、歯科医療と疎遠傾向が強い、いわゆる寝たきり老人の口腔内状態を補綴学的見地より調査し、同時に咀嚼能力の実情を知ることを目的とし、まず第一段階として愛知県内の老人専門病院にて、補綴的実態調査を行った。調査項目は一般的調査として現在の疾患名、寝たきりの原因となった疾患名、入院期間、リハビリ領域で使用されている日常生活動作(ADL)、食事の状況、性格類型等である。歯科的調査として残存歯数、齲蝕の程度、動揺度、歯石沈着の有無、歯周治療必要度指数、歯肉炎の有無、粘膜疾患の有無、欠損部顎堤の被圧縮度、歯科補綴物(義歯)の有無、口腔清掃方法等を調査した。また、調査結果より義歯装着可能な3名を選択して義歯装着前後の咀嚼能力を当教室で制作した簡易咀嚼能力検査表を用いて評価した。 結果の概要 1.被験者は男性12名、女性41名の計53名で平均年齢79.6才である。 2.無歯顎者率は男性66.7%、女性48.8%で平均52.8%であった。 3.有歯顎者25名の総残存歯数は233歯で一人平均残存歯数は9.3歯であった。 4.義歯が必要にもかかわらず、上下顎とも義歯を所有していないものの比率は39.3%であった。 5.歯科治療を希望するものの比率は治療中を含めて17.2%であった。 6.食事の状況は主食が粥食で副食がきざみ食であるものの比率が最も高く72.0%であった。 7.義歯を装着した3名の咀嚼能力は明らかに向上した。
|