研究概要 |
低リン血症性ビタミンD抵抗性クル病(以下HVDRRと略)の病理組織学的特徴の一つに,球間象牙質の多発とそれに伴つ多数の球状象牙質の発生があげられる。この球状象牙質のアパタイト結晶は,透過型電子顕微鏡で調べると,健常象牙質のそれと比較してきわめて大きく,このため、HVDRR象牙質アパタイトの結晶性の高いことが示された。また,血清リンレベルが正常で健全なヒトに発生した球間象牙質部の球状象牙質のアパタイト結晶も,同様の方法で調べると,健全象牙質部のそれと比較して大きかった。さらにRegional Odontodysplasiaに罹患した永久歯に発生した球間象牙質部の球象象牙質を微小焦点X線回析および透過型電子顕微鏡で観察したところ,球象象牙質における結晶性は高く,やはり球状象牙質部のアパタイトは大きいことが明らかとなった。これらの結果は、球状象牙質部のアパタイトの結晶性は被験者の疾病あるいは血中のリン濃度に関係なく高く,これがアパタイト結晶の大きさに起因することを示唆している。 そこでHVDRRのモデル動物であるHypマウスに高リン・高カルシウム食を与えて血中リン濃度を正常値にまで回復させ,その時に形成された象牙質を病理組織学的ならびに結晶学的に調べた。その結果,Hypマウスの血清リン値を正常値に回復させても,HVDRRに特徴的に認められる球間象牙質の多発は認められ,同部の球状象牙質のアパタイト結晶は大きく,その結晶性は高いものであった。 以上の結果は、球間象牙質部に認められる球状象牙質のアパタイト結晶がすぐれているのは,アパタイトが成長する上で必要なスペ-スの有無といった物理的な要因が関与している可能性を示している。
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