研究概要 |
上記課題における平成2年度のマウス(JclーSD系)を用いた研究結果から,歯胚形成期の高脂肪食(コントロ-ル食より40%高)摂取群は,低蛋白,低脂肪群(同40%低)と比較して,全ての臼歯歯冠が有意に(p<0.05)大きいことを報告した(M1:2.8%,M2:5.6%,M3:18.4%).平成3年度は,これらの実験結果を基に下記の疫学的調査を行った.資料は,1953年から1962年までに生まれた,男子17名,女子40名であり,歯齢IIIC期の歯列模型と出生時の状態(体重,出生順位など)や胎生期間中の母体の健康状態の記録が整っている者である.歯列模型の計測は,歯科用ノギスを用い(精度:1/20mm),上下顎の中切歯,側切歯,犬歯,第1,第2小臼歯,第1大臼歯の近遠心径および歯槽基底部の長径(BAL),幅径(BAW)について行った.胎生期間中の母体の栄養状態を知る指標のひとつとして,出生時体重を用いた.その結果,胎生期に歯胚が形成され,石灰化開始が生出時から出生後1年以内である上下顎の中切歯,側切歯,第1大臼歯の大きさと出生時体重の間には,正の相関の傾向が認められた(図).また,妊娠中毒症に罹患した母親の子供は,出生時低体重であり,上記の歯種の歯は小さかった.一方,出生後に歯胚の形成行われる第1,第2小臼歯,およびBAL,BAWについては,出生時体重との間に一定の傾向は認められなかった.Bailit(1968)は,出生順位と歯の大きさとの関係を報告しているが,今回の調査では,いずれの歯種についても歯の大きさとの間に一定の傾向は認められなかった.以上のことから,動物実験結果で明らかになったように,ヒトにおいても歯胚形成期の母体環境,特に栄養状態が歯の大きさに影響を及ぼすことが示唆された.
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