1.テトラキス(μーカルボキシラト)ジロジウム(II)錯体は、一本鎖核酸poly(A)とのみ反応し、二本鎖核酸poly(A).poly(U)および一本鎖核酸poly(G)、poly(C)、poly(U)とは反応しなかった。即ち、本錯体は一本鎖核酸(高次構造)のアデニン(塩基)を特異的に認識することを明かにした。真核細胞のメッセンジャ-RNAの3'ー末端にはpoly(A)鎖が存在するので、本ジロジウム錯体による単離および構造研究を今後の研究課題とする。 2.グアニン塩基を特異的に認識することが期待されるテトラキス(μーアミジナト)ジロジウム錯体(II)の合成を試みたが、現在のところ成功せず、本アミジナトージロジウム錯体と各種一本鎖核酸およびZーDNAとの反応実験を行うことができなかった。引き続き、今後の研究課題とする。 3.本ジロジウム錯体の塩基特異的反応性の原因を原子レベルで明かにする目的で、ジロジウム錯体と各種核酸塩基との複合体の合成とX線結晶構造解析を行った。(1)水素結合供与能および受容能を共にもつアミドを架橋配位子とするテトラキス(μートリフルオロアセタミダト)ジロジウム(II)錯体とデオキシグアノシンとの複合体のX線構造解析を行い、金属とグアニンのN(7)との結合およびアミダト配位子のイミノ基とグアニン塩基の0(6)カルボニル基との間の立体特異的分子内NH...O水素結合がグアニン塩基を認識していることを明かにした。ここでグアノシン分子は配位子間の立体障害のために非常に希なシン(syn)構造をとることが解った。(2)テトラキス(μートリフルオロアセタミダト)ジロジウム(II)錯体と1ーメチルシトシンとの複合体のX線構造解析を行い、金属とシトシン塩基のN(3)との結合および二本の立体特異的分子内水素結合、NH(アミダト配位子)...0(2)(シトシン)およびN(4)H(シトシン)...0(アミダト配位子)、がシトシン塩基を認識していることを明かにした。
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