研究概要 |
グルタチオンはそのままでは細胞内に取り込まれないが,エステル化したグルタチオンは容易に細胞内に取り込まれる。本研究代表者は,グルタチオンの投与ではほとんど軽減されない塩化第二水銀及びシスプラチンの腎毒性がグルタチオンエステルの投与によって効率良く軽減できることをマウスを用いた検討により明かにした。このグルタチオンエステルを用いて細胞内でのグルタチオン代謝を検討するために,まず,HPLCを用いたグルタチオンエステル定量法の確立を試みた。そして,SH基と特異的に反応して蛍光を発するABDーF試薬と試料を中性のpHで反応させたのちにODSカラムで分離することによりシステイン,グルタチオン及びグルタチオンエステルの分別定量が可能なことを明かにした。この方法は簡単でしかも迅速な定量法として有用と考えられる。グルタチオン及びグルタチオンエステルをマウスに投与して肝臓,腎臓および血漿中のシステイン,グルタチオン及びグルタチオンエステル濃度の経時変化をこの方法で測定したところグルタチオンエステル投与群でのみ肝臓中でのグルタチオン濃度の上昇が観察された。しかし,グルタチオンエステル投与群では肝臓,腎臓および血漿中に未分解のグルタチオンエステルも比較的高濃度に長時間(2〜4時間)存在した。この結果はグルタチオンエステルの生体内での分解が比較的遅いことを示しており,これまでの比較的早いとの知見と異なる。また本研究では,グルタチオンやシステインをマウスに投与した際に肝臓および腎臓中のグルタチオン濃度は増加しなかったがシステイン濃度の有意な上昇が認められた。この事実は細胞内に取り込まれたシステインのほとんどが速やかにグルタチオン合成に用いられるとのこれまでの考え方を否定するものであり,興味深い知見である。
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