既にヒト赤血球膜に存在する酸化型グルタチオンで活性化を受けるATPaseを精製してその性状を明らかにしてきた。今年度は、グルタチオンSー抱合体で活性化を受けるATPaseの精製とその構造解析、更に物理化学的性状を明らかにしようとした。ヒト赤血球膜を調製し、トリトンXー100で可溶化後、超遠沈の上清をSーヘキシルグルタチオンを結合したセファロ-スゲルにかけた。Sーヘキシルグルタチオンの濃度勾配で溶出すると、2つの異なるタンパク質の画分が検出された。後から溶出した画分が、グルタチオン抱合体によって活性化されるATPase活性を示した。Sー(2.4ージニトロフェニ-ル)グルタチオン(GSーDNP)に対するKmは38μM、ATPに対するKmは140μMであった。この酵素画分を燐脂質の人工膜に再構築してみると、グルタチオン抱合体による活性化を受ける酵素活性のみならず同抱合体の輸送活性も示した。このことからこの酵素画分がグルタチオン抱合体の膜輸送に関与していることが示唆された。本酵素は既に検討してきた酸化型グルタチオンで活性化されるATPaseのうち低親和性のアイソザイムに相当し、還元型グルタチオンでは活性化を受けず、GSーDND以外のグルタチオン抱合体に親和性を示した。バナデ-トやEGTAでは活性阻害を受けなかったことから、Na、KやCaの輸送を行うATDaseとは異なる酵素であると思われた。本酵素に対する特異抗体を作製し各種の細胞膜における局在を免疫学的に検討すると、赤血球のみならず、血小板、白血球、肝細胞などに広範に存在することが明かとなった。これら結果から、グルタチオンSー抱合体で活性化を受けるATPaseは各種の細胞膜に存在し、薬物や酸化的ストレスに対する細胞の防御反応に関与していることが示唆された。
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