研究概要 |
我々は覚醒剤の薬理作用の構造ー活性相関を研究してきたが,覚醒剤のフェニル基とアミノ基窒素の位置関係が近い形のコンフォメ-ションを取るとアミン放出作用を発現し,遠い形のコンフォメ-ションを取るとセロトニン受容体へのアゴニスト作用を発現することを示して来た。この構造ー活性相関の研究の過程で,単独では作用を示さない4ーフェニルテトラヒドロイソキノリンが覚醒剤のアミン放出作用を選択的に抑制することにより覚醒剤の作用を抑制することを見出した。これらの作用はラットの脊髄単シナプス反射電位の実験,脊髄切片からのノルアドレナリンの放出を測定する実験で示された。本年度の研究においては,主として,覚醒剤のラット移所行動増加作用および側坐核からのドパミン放出作用に対する4ーフェニルテトラヒドロイソキノリンの作用を研究した。(1)メタンフェタミン(3μg)をラットの側坐核に注入すると,ラットの移所行動が著明に増加した。4ーフェニルテトラヒドロイソキノリン(9μg)を投与するとメタンフェタミンの移所行動増加作用は有意の抑制された。(2)ラットの側坐核に透析チュ-ブを設置し,行動を測定しながら,ドパミンの放出を測定した。メタンフェタミン(10^<ー6>M)を潅流すると,ドパミンの放出は約8倍に増加した。4ーフェニルテトラヒドロイソキノリン(10^<ー6>M)を同時に潅流すると,ドパミンの放出は有意に抑制された。以上の結果は4ーフェニルテトラヒドロイソキノリンが側坐核において,覚醒剤のドパミン放出作用を抑制することにより覚醒剤の移所行動増加作用を抑制することを示している。4ーフェニルテトラヒドロイソキノリンは覚醒剤のアミン放出作用機序の研究および覚醒剤依存症などの研究に貢献できると思われる。
|