研究概要 |
本研究は、「種々の栄養物質およびその構造類似薬物の小腸、腎臓、肝臓、脳組織における細胞膜輸送機構」を解明し、「担体輸送系の基質認識特性」を検討することによって「組織選択的ドラッグデリバリ-システムの確立」を目指すことを目的とした。小腸上皮細胞膜輸送にはラット、ウサギ刷子縁膜小胞を、腎尿細管上皮細胞膜輸送にはラット側底膜小胞および刷子縁膜小胞の他にラット腎、肝組織抽出法を、血液脳関門輸送には、ウシ単離脳毛細血管、脳毛細血管内皮培養細胞および脳組織抽出法を、それぞれの目的に応じて用い、以下に示すように薬物の担体介在輸送を明らかにした。1)リン酸系薬物:リン酸構造を有するfosfomycinは、既に報告したfoscarnetと同様に、細胞内に向けられたNa^+勾配を駆動力として小腸刷子縁膜リン酸輸送系を介して二次性能動輸送される。2)モノカルボン酸系薬物:本系薬物の消化管吸収や脳移行は従来よりpHー分配仮説に従って単純拡散で進行すると解釈されてきた。これに対して本研究では、酢酸が小腸刷子縁膜をH^+との共輸送系あるいはHCO_3ーとの交換輸送系を介して二次性能動輸送される。いずれの輸送においても酢酸の取り込みはpH依存的であり、管腔側酸性環境で促進される。血液脳関門においても酢酸はH_+と共輸送系を介してpH依存的に脳内に取り込まれる。これらのモノカルボン酸輸送系はnicotinic acid,salicylic acid,valproic acidなどのモノカルボン酸構造を有する薬物のみを立体選択的に認識し、輸送する。3)塩基性薬物:thiamine,scopolamine,eperizoneなどの塩基性薬物は脳毛細血管内皮細胞コリン輸送系を介して脳内に取り込まれる。βーラクタム系抗生物質:腎臓と肝臓の血液側細胞膜および肝胆管腔側膜をprobenecidと共通の有機アニオン輸送系を介して取り込まれる。以上の知見は、生体膜輸送系の構造認識輸送特性を利用することによって、薬物を特定の組織にタ-ゲッティングし、または逆に移行性を回避させるなど、創薬に貢献するものと期待される。
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