研究概要 |
代表的なポリペプチド性薬物であるインスリンの鼻粘膜吸収性改善を企図して,βーシクロデキストリン(βーCyD)の親水性誘導体(ヒドロキシプロピル化体,メチル化体,分岐体など)による(1)インスリンの凝集抑制,(2)脂溶性吸収促進剤との併用によるインスリンの粘膜透過性亢進の2点に主眼をおいて検討を行い,以下の知見を得た. 1.インスリンの凝集性に及ぼすCyDの影響 水溶液中におけるインスリンの凝集はCyD添加により抑制され,サブミクロン粒度分布測定からもインスリンの高次会合体形成の抑制が示唆された.CyDの抑制効果はHSAと同程度であり,EDTAよりは弱かった.CDスペクトルの検討において,CyDはインスリンの270nm付近の負のCD強度を減弱した.このCDバンドはインスリン会合体における疎水性アミノ酸の逆平行β構造に帰属されることから,CyD添加によってインスリンの自己会合体の解離が起こるものと推定された. 2.脂溶性吸収促進剤とCyDとの併用によるインスリンの経鼻吸収促進 インスリンの経粘膜吸収を改善する方策として,主に蛋白分解酵素に対する安定化と膜透過性亢進の両面からの検討が必要であり,後者の目的には吸収促進剤が用いられる.本研究では,Azone^<【○!R】>よりも生体適合性や機能性に優れる脂溶性吸収促進剤HPEー101を高水溶性のHPーβーCyDで可溶化した系を用いると,HPEー101の機能が十分に発揮され,ラット鼻粘膜からのインスリンの吸収を顕著に増大することが確かめられた.HPーβーCyDは局所傷害性が極めて弱いため,頻回投与においても安全性に優れる経粘膜投与製剤の開発に有効利用が期待される. 本研究で得られた知見はペプチド性薬物の有効性,安全性,使用性改善の面のみならず,製剤の品質向上の観点からも重要な成果であると考えられる.
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