研究概要 |
オピオイド受容体タイプと身体依存および鎮痛作用との関連性、すなわち各オピオイド受容体タイプの特徴を明らかにすることを本研究の目的とした。オピオイドの身体依存は新たに開発した薬物をマウス脳室内に持続的に注入する方法(浸透圧ミニポンプ法)と薬物混入飼料法を用いて形成した。遺伝的にオピオイド受容体のうちμ1受容体が欠損しているCXBKマウスはμ作動薬であるモルヒネおよびDAGOの処置によりともに身体依存が形成された。しかし、これらのμ作動薬の退薬症候のうちCXBKマウスは対照として用いたC57BL/6、BALB/cマウスに比較し跳躍と身震いの出現率が有意に低く、体重減少と下痢の出現率には対照の系統との間に有意差は認められなかった。これらの結果より、μ作動薬の退薬症候のうち跳躍と身震いは主にμ1受容体によって調節され、体重減少と下痢は主にμ2受容体により調節されていることを示唆した。一方、κ受容体作動薬であるU50,488Hとδ受容体の作動薬であるDPDPEについても同様に浸透圧ミニポンプ法で身体依存を検討したが、U50,488Hではいずれの系統においても著明な退薬症候は観察されず、DPDPEではμ作動薬のモルヒネやDAGOよりも弱い退薬症候が観察された。したがって、μ作動薬は強力な身体依存形成能、δ作動薬は比較的弱い身体依存形成能を持つが、κ作動薬はほとんど身体依存形成能を持たないものと考えられる。次に、オピオイド受容体タイプの各作動薬を脳室内投与し、鎮痛効果を検討した。μ受容体作動薬はμ1受容体欠損CXBKマウスではほとんど鎮痛効果を示さなかったが、他の系統では有意な鎮痛効果を示した。したがって、μ作動薬の鎮痛作用発現には主にμ1受容体が関与していることが示唆される。また、CXBKマウスにおけるκ作動薬の鎮痛効果はC57BL/6、BALB/cに比較し有意に低い値を示したが、δ作動薬の鎮痛効果は各系統間で有意差は認められなかった。
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