研究概要 |
I.タキキニン・ペプチドによる血管平滑筋弛緩作用 摘出血管を用い種々のタキキニン・ペプチドによる弛緩作用について検討した.ブタ冠状動脈やモルモット大動脈ではNKー1型受容体アゴニストが最も強く,NKー3型のアゴニストであるセンクタイドは弛緩作用を示さなかった.また,これらNKー1型アゴニストによる血管弛緩はすべて内皮細胞依存性であった.次に,放射性サブスタンスPをリガンドに用いて結合実験を行なった結果,ブタ大動脈の内皮細胞膜上には,高親和性のサブスタンスP結合部位の存在が証明された.以上の成績から,タキキニン・ペプチドは内皮細胞のNKー1型受容体を介して血管を弛緩させると考えられる.このように摘出血管にサブスタンスPを与えると内皮細胞に依存した強い弛緩作用を現われるが,これが実際に生体内でどのような機序で行なわれているかは,現在のところ不明な点が多い.今後,内皮細胞の生理的役割の研究と並行して明らかにすべきである. II.タキキニン・ペプチド受容体と中枢性血圧調節 ラットの側脳室にタキキニン・ペプチドを投与すると,血圧の上昇と心拍数の増加が認められた.サブスタンスPやニュ-ロキニンAによる血圧上昇作用は,節遮断薬やα受容遮断薬によって抑制されたことから,主に交感神経系を介していると思われる.一方,NKー3型アゴニストのセンクタイドによる血圧上昇反応は,バソプレシン受容体拮抗薬の静脈内前投与により抑制され,しかもセンクタイドの脳室内投与により血中のバソプレシン量が著しく上昇したことから,視床下部のNKー3型受容体を介してバソプレシンの遊離による可能性を示唆された.以上の結果から,タキキニン・ペプタイドによる中枢性の血圧調節が,2つの系を介して行なわれている可能性が示唆された.現在,多くの新しい心血管ペプチドが視床下部領域に存在し,循環調節を行なってていることが考えられている.従って,今後これらのペプタイドとタキキニン・ペプチドの関連性を検討することが大切である.
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