研究概要 |
我々は,リポ蛋白リパ-ゼ(LPL)や肝性トリグリセリパ-ゼ(HーTGL)に対する自己抗体が出現したことによって発症した高カイロミクロン血症を発見しNew.Engl.J.Med.に報告した.本症は,自己抗体の出現によって,生理的に血中に存在して重要な役割を果たす酵素を欠損状態に陥れることによって,病気をきたすという,稀な病態の報告であったにとどまらず,その免疫グロブリンがIgGではなくIgAであったことでも興味ある病態であった. 本症の考察をすすめるために免疫学的見地からいくつかの検討を行った.まず本症のPostheparin Plasma Sampleを2種のモノクロ-ナル抗体によるサンドウッチ法ELISAでLPLおよびHーTGLの蛋白量を測定し酵素活性のデ-タと比較検討したところ,LPL活性が十分認められる病期でもELISA法では酵素蛋白を検出できなかった.この事から,この自己抗体はLPL蛋白の活性中心外に結合することが示され,またその結合能はモノクロ-ナル抗体よりも強いことがわかった.HーTGLに関しては,出現抗体の力価はLPLのものより弱いもののそのほかは,全く同様の結果であった. LPLの合成ペプチドを用いた自己抗体の結合部位を決定する予備的な検討では,用いた合成ペプチド数種類すべてと反応する可能性が示された.すなわち本症では,甲状腺に対する自己抗体(抗マイクロゾ-ム抗体),抗血小板抗体,抗LPL抗体,抗HーTGL抗体などの多くの自己抗体が存在する事と併せて推測してもLPLやHーTGL酵素蛋白の種々の領域に対する自己抗体が存在する可能性が高いと考えられた. また,自己免疫機構によって出現している可能性のある高脂血症の存在を探るため,高トリグリセリド血症のみにとどまらず,高コレステロ-ル血症を含めた種々の高脂血症を合併している異免疫グロブリン症や皮膚科疾患を含めた種々の症例について検討を加えているが,現状では本研究の端緒となった我々の“Autoimmune Hyperchylomicronemia"に続く発見には到っておらず今後の更なる検討が必要である.
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