研究概要 |
本研究は、ヒトにおけるGH分泌調節に関与する視床下部の役割を解明するため、疾患モデル動物として、GH分泌異常をきたしたラットにおいてGRFならびにSRIFの遺伝子発現とそれらに影響を与える因子を検討し、その相互作用を明らかにすることを目的とする。平成2年度は甲状腺機能低下症ラットにおける視床下部GRF遺伝子発現を検討し、その発現が亢進していることを見いだした。平成3年度では、視床下部SRIFがGRF分泌を抑制するという我々の報告(Katakami et al,Endocrinology1988)をさらに発展させ、蛋白質レベルのみならず遺伝子レベルでも、視床下部弓状核GRF産生細胞に対して、SRIFが抑制的に作用することが明らかにした(Katakami et al,73rd Annual Meeting of Endocrine Society,Abstract#1608,1991)。平成4年度では、GHならびにSRIF合成・分泌がともに低下したラットを作成し、in vivoでの視床下部GRF遺伝子発現に及ぼすGHの単独作用を明かにするため、当動物実験施設で飼育管理中の遺伝性侏儒症ラットを用いて、実験的にSRIFを選択的に枯渇し、GHならびにSRIFの影響をなくした状態で、GHを外因性に投与し、GHの視床下部GRF遺伝子及ぼす影響を観察した。遺伝性侏儒症ラットの繁殖に障害を来たし、実験遂行に十分な匹数がえられなかったこと、当ラットにおいてはSRIFを選択的に枯渇する薬剤にたいする毒性が強く、SRIFを枯渇するに十分な量が得られなかったことより、本実験は遺伝性侏儒症ラットSの繁殖能が回復するまで延期した。また、TRH、CRFの各10μg脳室内投与は弓状核のGRFならびに室周囲核のSRIF遺伝子発現には有意の変化を及ぼさなかった。次に、GRFのSRIFに及ぼす単独作用を検討する目的で、GHの影響を除外した動物、遺伝性侏儒症ラット、ヒトGRF遺伝子を導入したヒトGRF‐transgenicラットの作成を試みた。trandenicラットの解析のため、血中GRFを抽出操作無しに測定するための高感度EIA法を開発した(Hidaka et al,Clin Chem Enzymol Comm 1992)。さらに、正常SDラットにヒトGRF遺伝子を導入し、GHとGRFを経時的に測定することに成功した(Katakami et al,75th Endocrine Society Meeting Abstract)。現在、数匹のヒトGRF遺伝子を導入した遺伝性侏儒症ラットを得ている。今後、GRF過剰発現を示す本症ラットにおける内因性SRIF遺伝子発現を検討する予定である。
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