研究概要 |
平成2年度:前骨髄球性白血病細胞株PL-21のPAI-2産生に対する細胞分化誘導物質やサイトカインの影響を検討した。PL-21細胞を単球様細胞に分化誘導する作用を有するprotein kinase Cの活性化物質であるphorbol myristate acetate(PMA)がPAI-2産生を著明に増加せしめるが、一方PL-21細胞を好中球に分化するレチノイン酸は、PAI-2産生に影響しないこと、さらにグルココルチコイドであるデキサメタゾンがPAI-2産生増加作用を有すること、しかし、G-CSF,TNF,TGF,IL-6などはPAI-2産生に影響しないことが判明した。さらに、ウロキナーゼ(u-PA)産生pre-B細胞悪性リンパ腫細胞株RC-K8細胞で、PMAおよびデキサメタゾンはPAI-1やPAI-2の産生分泌との関連なしにPMAがu-PA産生を増強し、一方デキサメタゾンはu-PAの産生を抑制することが判明した。平成3年度:細胞内cAMPを増加させるprostaglandine E1,8-bromo cAMP,dibutyryl cAMPなどは、それぞれ単独では、PL-21細胞でのPAI-2産生に対してごく弱い産生増加作用しか示さないが、PMAと同時に作用させると、cAMPとPMAは相乗的にPAI-2産生を増強することが判明した。一方、RC-K8細胞でのu-PA産生に対しては、cAMPは抑制的に作用することから、生体内でcAMPが増加する結果は線溶抑制に作用することが推定された。平成4年度:ヒト胎盤cDNAライブラリーからPAI-2cDNAをクローン化し、Northern blot法にてPL-21細胞でのPAI-2 geneの転写活性に及ぼすPMAとcAMPの影響を検討した。その結果、PMAとcAMPは、転写レベルでPAI-2の産生を増強するがその作用には、いくつかの相違点があることが判明した。すなわち、PMAによるPAI-2mRNAの増加は、PMA刺激後、5-9時間でピークに達するが、cAMPの刺激では、PAI-2mRNAの上昇が24時間後にも続いていることや、蛋白合成阻害剤であるシクロヘキシミドがPMAによるPAI-2mRNA増加作用を抑制するのに対して、cAMPによるPAI-2mRNAの増加はむしろ促進されることなどが判明した。現在、このPMAとcAMPの作用機序の解明のため転写因子の発現などと蛋白リン酸化反応の関連について検討中である。尚、この転写因子の一部に発癌遺伝子産物JUN/FOSが関与していることを示唆するデータが得られており、PAI-2の研究は、血栓止血学の分野のみならず腫瘍学の分野でも注目される。
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