研究概要 |
近年新しい製パン技術として注目されいてる冷凍生地製パン法の問題点である酵母の冷凍障害に関して研究を行い,以下の知見を得た。酵母の冷凍障害は、凍結温度・期間によって著しい影響をうけるが,酵母の冷凍感受性の差異によってその影響の程度が明らかに異なった。また,0.5〜1%エタノ-ル中で凍結融解した酵母は強い障害をうけ,ショ糖が共存すると障害が抑制される傾向が認められた。冷凍生地中においてもエタノ-ルの存在下で酵母は強い冷凍障害をうけるが,冷凍耐性酵母は感受性酵母よりも解凍後の生地発酵力が大きかった。小麦粉に存在する抗酵母タンパク質ピュ-ロチオニンが凍結融解後の酵母の発酵力,細胞内物質の漏洩量に及ぼす影響を検討した結果,冷凍感受性酵母において強い発酵阻害,物質漏洩の増大が認められたが冷凍耐性酵母ではその影響は少なかった。一方,凍結溶液中での酵母細胞からの物質漏洩は,溶液のpHによって著しい影響をうけ,いずれの酵母もpH3〜4で漏洩速度は最大となった。また,細胞内物質の漏洩が細胞膜の損傷(酵素的分解)に起因すると考え,膜リン脂質の分解に関与する酵素ホスホリパ-ゼ活性を比較検討した結果、冷凍感受性および耐性酵母ともに反応の至適pHは3付近であり,細胞内物質の漏洩を促進するPHとほぼ一致した。さらに,冷凍感受性酵母のホスホリパ-ゼ活性はピュ-ロチオニンの存在下で著しく増大するが耐性酵母の活性はほとんど影響をうけないことを明らかにした。ピュ-ロチオニンによるホスホリパ-ゼ活性化作用が酵母の種類によって異なる原因を追求した結果,両酵母の細胞膜リン脂質組成の相違。すなわちホスファチジルセリンおよびホスファチジルイノシト-ル含量の差異がピュ-ロチオニンによるホスホリパ-ゼ活性化作用の違いを反映することを明らかにした。
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