野菜の煮熟による軟化が主として細胞壁の構造変化によることを、エポキシ樹脂超薄切片の電子顕微鏡観察から明らかにしてきたが、今回はさらに研究法を発展させて、人工像をつくる可能性のある化学固定操作を行うことなく細胞壁構成成分の相互関係を観察できる急速凍結・ディ-プエッチング・レプリカ法により生、及び煮熟後の細胞壁を観察した。 1.ニンジン皮層部柔組織の細胞壁は、走行方向の異なる層板状構造をしたセルロ-スミクロフィブリルの間に微細な顆粒や繊維からなるマトリックス成分の詰まった第一次壁であり、細胞壁間は顆粒や繊維成分の豊富な中層部で結着されていた。3〜4個の細胞間に形成される細胞間隙の部分は中層部と連続していた。 2.30分間煮熟した細胞壁の第一次壁では、セルロ-ス繊維間に存在していたマトリックス成分がほとんど消失して隙間を生じ、軟化の様相を呈した。中層部で第一次壁間の分離が顕著であるが、中層と細胞間隙には煮熟により崩壊しない網目構造が残存した。 3.第一次壁成分の化学的溶解性に着目し、30分間煮熟したニンジン柔細胞壁をさらに30mMヘキサメタリン酸ナトリウムで20℃8時間処理したもの、及びさらに4MーKOHで20℃13時間処理したものを観察した結果、煮熟30分でほとんでのマトリックス成分が溶出していることがわかった。 4.生のニンジン柔細胞壁にポリガラクツロナ-ゼ処理を施した結果は、第一次壁のセルロ-ス繊維間が広がり、煮熟した細胞壁と似た様相を呈した。しかし、細胞間隙部には煮熟後と同様の網状構造が残存し、これは非ペクチン質成分である可能性が示唆された。この構造が野菜の煮崩れを防止していると考えられる。
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