研究概要 |
体位変換に伴う心臓血管系の応答に及ぼす静的(等尺性)筋力トレ-ニングの効果について検討することを目的とし,15名の女子大学生に,4週間の筋力トレ-ニング(背筋力,左右脚伸展力,左右脚屈曲力,左右握力)を,35セット(最大筋力の5秒間発揮を1セットとする)を2回,週3回の頻度で行なわせた。このトレ-ニングの前後に,臥位から立位への体位変換テストを実施し,変換中の動脈血圧,心拍数,前腕血流量,前腕皮膚血流量を測定した。この一連の実験により,以下の結果が示された。 (1)体位変化に伴う心臓血管系の応答に及ぼす特徴は,脈圧が低下し、一回拍出量が減少すると、それを補うように,心拍数と総末梢血管低抗が増加することであった。このため,動脈血圧はたとえ体位が変換し重力作用によるストレスを受けても,一定値にほぼ維持されるか、あるいは僅かに上昇するという応答を示した。 (2)体位変化に伴う上述の応答は圧受容器反射を介して生じていると考えられた。また,高圧受容器反射が立位中接続的に心臓血管系の調節に働き,低圧受容器反射は体位変換直後に一過性に働くのではないかと推測された。 (3)4週間の筋力トレ-ニングは持久性作業能力を変動させることなく,各筋力を有意に増加させた。その筋力トレ-ニング後には,4週間という短期間であるにもかかわらず,体位変換に伴う重力ストレス作用を緩和し,動脈血圧の維持を助長するだろうという結果が示された。さらに長期間にわたるトレ-ニングを継続させることにより,今後明瞭にされなければならないが,体位変化に伴って生じる立ちくらみや失神という重力ストレスに対する心臓血管系の耐性は,筋力トレ-ニングを実施することによりある程度向上させられることが示唆された。
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