研究概要 |
食細胞による抗体依存性の生体防御反応は外界からの微生物の侵入を防ぎ,有害な異物を排除するために不可欠である。この反応は食細胞膜上のFCレセプタ-(FcγR)を介して認識されるが,このFcγRは多様でヒト多形核白血球(PMN)の場合2種類のタイプ,FcγRII,FcγIIIが存在する。 両タイプの異物認識における役割分担を明らかにするために,プロナ-ゼ処理により調製したFcγRIIIのみを欠くPMNへの抗原抗体結合物(IC)の結合量をフロ-サイトメトリ-で測定し,対照PMNのそれと比較した。FcγRIIIを欠いてもPMNへのIC結合量の低下はみられなかった。ICのPMNへの結合に対する抗FcγR抗体の影響を調べたところ,対照PMNでは抗FcγRIIIのみで,FcγRIII欠損PMNでは抗FcγRIIのみで強い阻害が認められた。これより,PMNはFcγRIIIを介してICを捕足するが、炎症時に生ずるプロテア-ゼでFcγRIIIを欠いてもFcγRIIを介してICを結合すると考えられる。また、ICによるPMNのス-パ-オキシド生成応答の強さはFcγRIIIの有無にかかわらず同程度であった。 一方,PMN膜上には補体成分C3の分解産物iC36と結合する補体レセプタ-(CR3)の存在が知られており,FcγRと協同して異物を排除する。iC36を結合したIC(iC3bーIC)によるPMNのス-パ-オキシド生成応答はICによる応答の約2倍である。ICによるPMN応答は,前述のように、抗FcγRIIIで強く阻害されるのに対して、iC3bーICの場合は抗FcγRIIIでまったく阻害されず、抗FcγRIIで強く阻害された。このことはiC3bがICに結合することで,PMNへの結合がFcγRIIIを介する結合からFcγRIIを介する結合に変換することを示している。今後,この知見を手がかりに,より生理的条件に近い反応系を確立し,FcγRの異物認識と細胞応答の分子機構を明らかにしたいと考えている。
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