研究概要 |
大腸菌アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AspAT)はその活性部位に補酵素ピリドキサ-ルリン酸(PLP)を持ち,アスパラギン酸のアミノ基をPLPに渡しピリドキサミンリン酸とオキザロ酢酸を生成する反応を触媒する。AspATおよびその変異型酵素のX線結晶解析を行ない,酵素化学的,遺伝子操作法による研究を参考にして,この酵素の反応機構を解析した。AspATおよび基質アナログとの複合体の結晶を作り,放射光を用いて回析デ-タを収集した。その結果この2つの構造を1.8A^^°の高分解能で決定できた。AspATは基質取り込みに際し,分子全体が大きなコンホメ-ション変化を起こしていた。活性部位の構造の詳細な解析の結果,基質特異性および反応の立体特異性がどのようにして達成されているかを明らかにした。基質取り込み時のコンホメ-ション変化は,基質結合時の数多くの水分子の放出によるエントロピ-の増加が駆動力になって起こると考えられる。触媒反応で重要な役割をする活性部位のアミノ酸残基は,他のアミノ酸で置換すると活性が著しく低下する。この重要な残基の役割を明らかにするために,他のアミノ酸で置換した変異型酵素のX線結晶解析を行なった。Y70Fの全体構造は野生型と同じであり,F70のベンゼン環の位置はY70と同じ位置にあった。活性部位にC_5基質をモデルフィッテイングすることにより,ベンゼン環はC_5基質の認識に関与している可能性が示された。Y70Wでは活性部位の基質アナログが結合していたがPLPとシッフ塩基を作っていなかった。これはミハエリス錯体が補捉できたことを意味する。R292Vの全体構造は野生型と同じである。驚くべきことに292番の電荷の消失にもかかわらず,V292の側鎖はR292のと同じ位置にあった。Y225Fの構造解析から,Y225の水酸基のPLPとの水素結合が反応に重要であることがわかった。
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