研究概要 |
シアル酸は糖タンパク、糖脂質などの細胞表層物質の構成成分として、広く動物組織等に存在し、表層物質に負荷電を賦与し、細胞間認識・細胞間情報のシグナリング機能を担う重要な糖成分である。他方、K1,K92,K235抗原をもつE.coli,Meningococcus,Salmonella,Streptococcus,Bacterioidesにシアル酸含有表層物質が存在している。動物細胞におけるシアル酸生合成経路はすでに明らかにされているが、細菌では、まだ未確定と考えられる。RosemanらはGlcNAcー6P→ManNAcー6P→ManNAc→シアル酸の経路が細菌におけるシアル酸合成を担うと提唱しているが、矛盾点も多い。最近、我々はK1抗原を持つE.coliにUDPーManNAcを加水分解する酵素(UDPーManNAc hydrolase)を発見し、約600倍まで精製した。本研究では、この酵素反応の主生成物を2ーアセトアミドグルカ-ルと同定し、シアル酸合成経路とのつながりを検討した。 1.酵素及び化学的反応を利用し、UDPーGlcNAcからUDPーManNAcを多量に調製後、上記の精製酵素と反応させ、主反応生成物を分離精製、ついで各種の機器分析で2ーアセトアミドグルカ-ルと同定した。 2.UDPーManNAc hydrolaseに加え、ManNAcーkinase、cytidyltransferaseなどのシアル酸合成に関与する酵素の存在が検討した菌に認められた。しかし、2ーアセトアミドグルカ-ルはこれらの酵素の基質とならず、またManNAcへの酵素的変換も観察されなかった。 3.従って、UDPーManNAc hydrolase反応の生成物は本来、ManNAcであり、反応系の何らかの欠陥により、異常な生成物2ーアセトアミドグルカ-ルが主に生成したと判断される。今後、酵素系が正常に機能する条件を検討し、UDPーManNAcからシアル酸への変換過程を確認したい。また、他の菌におけるこれらの酵素群の分布をべ、細菌におけるシアル酸生成経路は動物系と異なることを明らかにしたい。
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