研究概要 |
本年度はチロシンリン酸化酵素Fynの基質の同定と低親和性IgE受容体FcεRII(CD3)との結合について新しい知見が得られたので報告する。 正常Fyn蛋白(Fyn^A)とC末端が異常な高発癌性Fyn蛋白(Fyn^c)によってリン酸化される基質の差異がマウス正常細胞NIHBT3への形質転換能を規定しているとの仮説のもとに,基質の同定を進めている。入手可能な,シグナル伝達に関係しそうな蛋白質に対する抗体を用いて,fynを導入したNIH3T3細胞の破砕液を免疫沈降し,これをWestern blotして抗リン酸化チロシン抗体でリン酸化の有無を調べる方法により,Fyn^d・Fyn^Cともにras蛋白のシグナル伝達に関与するGAP(GT Pase Activating Protein)をチロシンリン酸化することが見出された。しかしながら,Fyn^C特異的な基質を認識する抗体は今だ得られていない。 京大ウィルス研の淀井らとの共同研究により,B細胞の増殖に関与する可能性が示されているFcεRIIのシグナル伝達にチロシンリン酸化が関与するか否か検討した.その結果,FcεRII cDNAを導入されたNK細胞様株YTSERにおいて,FcεRIIとFyn蛋白が物理的に結合し,ILー2受容体の鎖の発現が上昇していることが示された。また,B細胞においてもFynとは異なるものの,未知のチロシンキナ-ゼとFcεRIIが結合していることが証明できた。従って,FcεRIIはチロシンキナ-ゼを介して細胞内へ信号を伝達していることが強く示唆される。
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