研究概要 |
前年度の研究に於て,ピリドキサルリン酸を用いる化学修飾法により同定したロイシン脱水素酵素の活性部位に存在するLys80の触媒機能上の役割を明らかにするために、部位特異的変異導入法によりLys80をAla,Arg,またはGlnに置換した変異型酵素を作成した。各変異型酵素を均一に精製し、それらの酵素化学的性質を解析した。酸化的脱アミノ化反応ではLys80→Alaをはじめ各変異型酵素の活性は野生型酵素の0.2〜1.6%に低下していたが、還元的アミノ化反応では各変異型酵素によって大きく異なり,Lys80→Alaで野生型酵素の89%,Lys→Glnで23%,Lys80→Argで0.4%であった。また,基質に対するKm値のうち,ケト酸に対する値はLys80→AlaとLys80→Glnで大きく増大していたが、NAD^+に対する値は野生型酵素のそれと大きく違わなかった。これらの結果より,野生型酵素のLys80のεーアミノ基と基質ケト酸のαーカルボニル基との静電的相互作用が還元的アミノ化反応における基質結合過程に重要であることが示唆された。また,酵素反応系にメチルアミンを添加することにより,Lys80→Alaの反応速度はアミン濃度に依存して上昇するのに対し,野生型酵素ではこのようなアミンによる活性化効果は見られなかった。この結果から,Lys80→Alaにおいては添加したメチルアミンが野生型酵素のLys80のεーアミノ基と類似の機能をもつものではないかと推定された。そこで,11種類の各種一級アミンの在存下で、Lys80→Alaの反応速度定数k_Bを求めたところ,k_Bの対数は各アミンのpKaと分子体積(V)とに造関し,式:logk_B=β(pKa)+β'V+Cが成立した。すなわち,アミンの分子体積の項を補正すると,logk_BとpKaの間には比例関係があり,添加アミンは一般塩基としてLys80→Alaの反応を促進することが判明した。以上の結果より,ロイシン脱水素酵素の活性中心に存在するLys80は,本酵素反応において一般酸塩基触媒的な機能を果たすことが明らかになった。
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