研究概要 |
毛細血管拡張性運動失調症(AーT)は高発癌性、放射線高感受性を示す劣性遺伝病である。この原因遺伝子は現在迄不明である。本研究ではAーT患者の皮膚から得られた細胞に単ーヒト正常染色体を移入する技術によってAーT遺伝子の存在する染色体を確認すると同時に、この細胞を用いてAーT細胞でみられる多様なAーT特異的形質発現の関連性を明らかにするのが目的である。染色体移入は11番および12番染色体について行ったが移入染色体の安定性はクロ-ンによって異った。例えばクロ-ン11/3ではすべての11番染色体が安定に保たれるのに対し,クロ-ン11/4および11/5ではそれぞれ55%,86%の細胞に移入染色体がみられるにすぎない。移入染色体上のpSV2heoをマ-カ-として行ったinstitu hybridizationの結果はすべての細胞で染色体移入がみられるので、染色体の欠落はその後の培養中に生じたものである。移入された染色体の中ではヒト11番染色体の移入に特異的に正常レベルへの放射線致死感受性の回復がみられた。一方、染色体異常頻度の比較では11番染色体の移入によりAーT細胞のGaP、Ring型染色体異常が大巾に低下して染色体異常総数は正常細胞の誘発レベルに迄回復した。同様に、放射線照射した細胞の0.5MNaClの20分間高張処理によって発現するfastPLD回復能力も正常11番染色体の移入により正常レベルへの回復がみられた。すべてのAーT細胞に共通して発現する放射線抵抗性DNA合成は11番染色体移入によって得られるクロ-ンによって様相が異なった。すなわち、クロ-ン11/3では両クロ-ンの中間値を示した。これは移入染色体の安定性に原因があるらしい。このように本研究はAーT遺伝子がヒト11番染色体に存在すること,そして多様なAーT形質の発現は唯一つの遺伝子の欠陥に原因があるらしいことを示した。
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