研究概要 |
蛋白質のfoldingを理解するために,unfold状態の構造に重点を置き,X線溶液散乱法を用いて二つの異なる視点から研究を進めた。一つは全長のStaphylococcal nuclease(以下SNase)を用いた変性の構造的側面の解明であり,他は生理的条件下でunfold状態にあるモデル系を遺伝子工学的に構築することである。 X線溶液散乱から得られる慣性半径及びKratkyプロットの積分値が変性のよい指標となることが明らかにされた。これらの物理量は,分子のコンパクトさ或は球状性という性質を表現している。コンパクトさを指標にした変性曲線は,蛍光やCD等分光測定によるものと異なる場合のあることが明らかになった。m-に属する変異体では変性曲線の傾きはX線と分光測定では同一であるのに対し,変性の中点の尿素濃度がX線で見た方が高濃度側にシフトしていた。一方野生型SNaseでは両測定間に顕著な差は見られない。この事実は,通常は高度な協同性のため分離不可能な二次構造などの局所的な構造の消失と,コンパクトな全体の形状の消失が,実は必ずしも対応していないことを示している。foldingの際は,コンパクトな形状にまとまってから二次構造が形成されるというモデルを支持し,これまで支配的であった二次構造が形成された後に三次構造が形成されるというモデルを否定する重大な観測結果である。 SNaseのC末より13残基を欠損したフラグメントは,生理的条件下でunfold状態にあるが,阻害剤pdTpを加えるとfold状態になることが明らかにされた。フラグメントにアミノ酸置換を施すとm-に属する置換体は野生型よりコンパクトな形状となり結晶構造とは異なる何らかの内部構造が出現すること,m+に属するものは鎖状高分子様になることが明らかになった。これは,アミノ酸置換の効果がunfold状態にも現れることの証明である。 X線溶液散乱法を,他の蛋白質のfoldingの研究にも応用した。チトクロムcでは,モルテン・グロビュール状態が明瞭に識別でき,またモルテン・グロビュールへの巻戻りは二状態的であることが明らかとなった。
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