一昨年、福岡県下の小学校、中学校、高等学校の教員を対象に「動物解剖実習の取り扱い」についてのアンケ-ト調査を行い、これらの分析を行った結果、動物解剖実習の実施頻度は小、中、高を通して近年低落していることを明らかにした。この要因は直接には文部省指導要領の変更、指導に基づくものであると判断されるが、同時に、最近の「生命への畏敬」、「生命の尊厳」を重視した教育指導との並立、融和の困難さにあるのではないかと推定された。この傾向はとりよけ初等教育において顕著である。しかし、一方で、近年の児童生徒は解剖実験に対して、「気持ち悪い」、「きたない」との反応が顕著であり、解剖実験の衰退が生命教育への教育効果を高めているとは判断できない実態も指摘される。また、中学、高等学校では解剖実験の教育的意義を認める教員は多数であり、その教育的意味を否定する教員は極微であった。これらのアンケ-トの分析結果のまとめにおいて、動物解剖実習は単なる自然知識の獲得として位置づけるだけではなく、生命科学教育としての位置づける重要さが指摘された。解剖実習が自然教育教材であることに加え、生命教育の教材としての明確な位置づけと、生命利用に関する倫理的、教育的配慮が充分になされるならば、動物解剖は自然科学教材としても、生命教育教材としても極めて優れたものになりうると判断される。しかし、この場合には、教員自身の自然観、生命観、倫理観など指導能力が問われることになる。これらの初等中等教育への動物解剖実習に関する私の論議、提言は、「初等中等自然科学教育における動物解剖実験の実態調査」に要約した。また、これまで明らかにした、人間の生命利用の「原理論」に加えて、本年度は生命利用の「倫理的行為論」の論理構築を試みた、これらは「動物実験の可否を問う」(仮題)に北徳氏との手紙による討論としてまとめられ、また、本研究によってなされた私の論文、資料もあわせて転載され、出版される運びとなっている。
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