研究概要 |
本研究は今年度をもって終了した。今年度は,3年間の研究を総括し,最終的に整理,検討した上で,研究成果報告書(英文)をとりまとめた。 その中で研究代表者は,敦煌出土の『異本・入菩薩行論』の中の最重要の章である第8章「知恵の完成(般若波羅密)の説示」のローマ字テキスト(スタイン収集本No.628,629)を提供するとともに,現行のチベット大蔵経(版本)に残る,この異本に対する注釈文献の同じく第8章の校訂ローマ字テキストを作成し併せて編入した。その上で,異本の文献史的・思想史的な位置,現行本との異同,著者名の相違とその背景等について,序論の中で詳細に解説し,考証した。 本研究によって以下の点が明らかになった。 1著者名のアクシャヤマティは,シャーンティデーヴァの異名であり,とりわけ『入菩薩行論』の著者名として古くから知られていた呼称であること。 2異本は現行本よりも原形に近く,700余りの詩頌から成る極めて貴重な文献であること。ただし,敦煌本の詩頌の中には,半偈欠落している偈頌もいくつかあり,また部分的には多少の錯簡もうかがえること。 3第8章(現行本の第9章)に限っても,異本と現行本とでは,詩頌の数ばかりでなく,順序や内容においても出入りや相違が少なからずあり,現行本は異本に対する単なる増広テキストではないということ。 以上の諸点等については,今後のさらに綿密な考証が期待されるのであるが,本研究は今後の実証的な研究の一つの道標を提示したという意味において,有意義な成果をもたらしたと考えられる。
|