日本学士院に所蔵される多量の和算書を閲覧して、とくに絵図作製に関連する測量術関係のものを選び出して、写真撮影によって研究用資料の収集を行った。同時に、近世の藩政資料を比較的まとめて所蔵する米沢市立図書館、徳川林政史研究所、鳥取県立博物館、熊本県立図書館、佐賀県立図書館、長崎県立図書館、上越市立高田図書館、新発田市立図書館などに出向いて、村絵図を中心とした各種の近世在方絵図の残存状況を調査し、可能な範囲で写真撮影による研究資料の収集を行った。 近世の測量術書については稿本、刊本を合せて多数が存在するものの、絵図作製の技術と直接関係して編まれた測量術書は意外に少ないことが分った。近世の測量術は「量地五術」あるいは「遠測五術」などと称されるように、測量方法の相違によって一応は体系分類がなされていたことを知り得た。収集資料を分析することによって、絵図作製の実際にどの測量術がどのように利用されていたかを具体的に解明するのがこれからの課題である。 藩政用公用絵図である近世の在方絵図は、諸藩においてきわめて豊富に作製されていたことを確認することができた。これらの絵図を一般図と主題図に大きく分け、さらに作製目的によって細分し、それぞれの形式・内容上の特徴を明らかにしていくのがこれからの作業である。また、領内の村絵図が藩府によって組織的に整備されていた事例として萩藩、鳥取藩、名古屋藩、佐賀藩などの場合を確認することができた。これら諸藩での組織的村絵図整備の背景についても考察していく予定である。
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