研究概要 |
現在,日本のマスコミにおいてもさかんに報道されていることからも明らかなように,ソ連邦・ロシアにおけるペレストロイカの激動の様相はわれわれ外国のソ連邦・ロシア研究者の予測をはるかに超えるものである。それは本国ソ連邦内にあってもまったく同様であり,自国・自民族の社会と文化の今後の動向は彼ら自身にとってもきわめて見えにくいのが現状であるといって間違いあるまい。その中で特に目立つのが,ロシア的・ロシア民族性なるものをめぐる激しい確執と討論であり,そのことはいわゆる民族的アイデンティティを求め,ロシア・ナショナリズムとは何かをめぐる理解の差異という形で現われていると考えられる。本研究は,この問題を現状動向をただフォロ-するといった形ではなく,いわばこの問題の発生時点とも言うべき18世紀後半から19世紀前半という時期にさかのぼり,この時期に残されたいわゆる民族的な文学作品である昔話・民謡等に代表される口承文学作品の検討を通してこの問題をとらえ直そうとするものであった。本年度においては,この18世紀後半以降の主要な収集と記録・記述を民俗学史に関する各種書誌ならびに旅行・調査録,回想記等々の資料よりひろい出す作業が主眼となり,ほぼ当初の計画を遂行することができた。ここで得られた一種の書誌目録により,その時期に,ロシア的なもの・ロシア民族性に対して最初の関心が生まれ,しかも同時に,その視点のズレが相互の論争を数多く引き起こしていったこと,そしてその中から,保守と革新・進歩といった立場が与えられていくプロセスがたどれることーこれらの点はいまだ十分に具体的資料の裏付けを与えられたとは言いがたいが,本年度内での研究作業の範囲内でも十二分に想像しうるこものである。さらに今後の研究が求められるであろうし,これに関しては平成3年度分の科研として申請中である。
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