本研究では、フルタイマ-とパ-トタイマ-の賃金格差を効率賃金理論で説明し、その結果、フルタイマ-に効率賃金を支払う理由がなくなってきたことを理論とデ-タの分析の両面から実証する。第1に、日米でのフルタイマ-とパ-トタイマ-の雇用動向を明らかにし、第2に、両者の賃金が日米でどう推移しているかを分析し、第3に、効率賃金理論を概観し、その理論の妥当性を吟味するとともに、フルタイマ-にパ-トタイマ-より高い賃金を支払うことが効率的ではない、という仮説を検証するためのモデルを設定する。第4に、そのモデルを使ってコンピュ-タで実証分析を行う。現時点での研究成果は、おもに第3の段階までのものであり、その中には、次のようなものが含まれる。(1)過去20年間の統計を調査、分析すると、日米ともに、パ-トタイマ-がフルタイマ-より高い増加率を示している。(2)米国での非自発的なパ-トタイマ-は、フルタイマ-や自発的なパ-トタイマ-に比べて、この10年間に4倍以上の増加率(その数は現在500万人)を示した。(3)パ-トタイマ-の賃金は、日米ともに、フルタイマ-の60%程度である。この賃金格差は、各種の給付を含めると、さらに拡大する。アメリカでは非正規労働者の活用によって、企業は賃金総額の24%を節約できる。(4)アメリカでのパ-トタイマ-とフルタイマ-の賃金格差(17%)は、年齢、人種、職種、学歴などの要因を考慮しても、説明しきれない。(5)1980年代は、日米ともに、フルタイマ-に対する効率賃金が効率的ではなくなってきた。企業は多くの労働者を社内に抱え込むことに懸念を抱き始め、人的資源のフレキシビリティを高めてきた。モデルは、現在、計算機上での模擬実験段階にあるが、その結果を出すのが本年度の主要な研究目標である。
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