研究概要 |
従来のランダムなフラクタルパタ-ン形成の研究対象はもっぱら物理・化学系に限定されており,その見掛け上の複雑さのために生物系への適用は全く議論されていなかった。我々はある種の(しかしごくありふれた,納豆を作るものと同種の)バクテリアを寒天上で培養した時に生ずるコロニ-に注目した。バクテリアの増殖のための栄養分の濃度と培地の硬軟を決める寒天濃度という,物理量の変化だけでコロニ-パタ-ンが多様に変わることを発見した。特に寒天培地が硬く,栄養濃度が充分低い場合にはコロニ-はきれいな自己相似フラクタルパタ-ンに成長し,それが“拡散に支配された凝集(DLA)"モデルによって説明可能であることを実験的にはっきりと証明した。このDLAは電析や化学溶解,ヴィスカスフィンガリングなど,物理・化学系で観測されるパタ-ン形成を説明できることでよく知られたモデルである。従って,本研究はDLAで説明可能なパタ-ン形成が生物系でも存在することを示した最初の実験である。換言すれば,生物系といえどもそのパタ-ン形成に環境の物理・化学的条件が本質的に効く場合があることを示している。また,栄養濃度が低く寒天培地が軟い場合にはコロニ-は枝別れ状に,しかも枝が密集して成長し,外形がスム-ズなパタ-ンとなる。これも物理・化学系で見られる典型的な成長パタ-ンの一つである。 現在,栄養濃度,寒天濃度をパラメ-タとしたコロニ-パタ-ンの相図を作製中である。また,バクテリアの種の違いがコロニ-パタ-ン形成にどのように影響するかを調べることが今後の課題である。
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