研究概要 |
平成2年度において,本補助金を用いてデジタルマルチメ-タ,スキャナ-,定電圧定電流電源,小型計算機,ガラス製クライオスタットを購入し,直流電気伝導率測定装置を組み上げ,二端子または四端子法により4〜300Kの温度範囲で電気伝導率を半自動測定できるようにした。有機ラジカルを遍歴電子系とし遷移金属錯イオンを局在電子系とする物質群を目的で,TTF誘導体の電荷移動塩結晶を電解法により合成した。これらの電荷移動塩のなかで比較的高い伝導率を示したBEDTーTTFのCOCl_4およびMnCl_4塩の磁性を磁気天秤および電子常磁性共鳴法による調べ,BEDTーTTF分子積層上の遍歴電子スピンと遷移金属イオン上の局在電子スピンとの間には磁気相互作用が確かに存在するものの,その大きさは1K以下の比較的小さなものであることを明らかにした。次いで平成3年度において,有機ラジカルを遍歴電子系および局在電子系双方に用いる物質群としとて,ニトロニルニトロキシドを電子供与性分子またはイオンと接合させた化合物のTCNQおよびTCNQF_4錯体を合成した。伝導性の高い錯体は現在までのところ得られておらず,磁気的にも中性ラジカル部分のみが磁性に寄与する結果となっている。別の例としてニトロキシドをTTFと結合させ,そのTCNQおよびTCNQF_4錯体を合成した。この場合も磁気的には同様の結果が得られた。以上の結果は局在電子系として用いた有機中性ラジカルと遍歴電子系として用いた有機イオンラジカルとの磁気的結合が未だ不十分であることを示唆していると考えられる。上記の研究の過程において,伝導性は低いが有機ラジカルを媒介として分子間強磁性相互作用を示す物質を見いだした。3ーキノリルニトロニルニトロキシドの磁化率の温度依存性および等温磁化曲線はワイス定数あるいは交換結合定数約0.3Kの強磁性相互作用の存在を示唆する。いずれの物質群においても相互作用を大きくすることが今後の課題である。
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