研究概要 |
まず第一段階として、本研究で立体保護基として用いる2,4,6ートリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル基(以下Ar基)の基本的な性質を把握し、含14族元素官能基を導入するため、ArBrからtーBuLiの作用により発生させたArLiについてその熱的安定性並びに求電子試薬との反応性を詳細に検討した。その結果、ArLiはTHF中ー78Cでは十分安定であり、求電子試薬との反応により芳香環上に種々の官能基の導入が可能であるが、ー30C以上では1,3ーケイ素転位反応により側鎖のシリル基が芳香環上に転位し、ベンジルアニオンを生成することが判った。この反応は、アニオンを経由する1,3ーケイ素転位反応としては初めての例であり非常に興味深い反応である。これらの知見をもとに含14族元素活性化学種の安定化を目指し、種々の官能基変換を行った。ArLiとSiF_4及びGeCl_4との反応によりArSiF_3とArGeCl_3を安定に合成すると共に、得られたトリハライドに対しさらに有機金属試薬を用いた求核置換反応によるメシチル基の導入を行いAr(Mes)SiF_2及びAr(Mes)GeCl_2とした。次いで得られたジハライドのLAH還元により合成したAr(Mes)MH_2(M=Si,Ge)の単体硫黄との熱反応を試みたところ、これまで単離例のない新規な環状ポリスルフィドである1,2,3,4ーテトラチアメタロラン類、Ar(Mes)MS_4(M=Si,Ge)を安定な淡黄色結晶として単離することに成功した。さらに得られたメタロラン類のX線結晶解析を行いその分子構造を確定し、これまで未知であった1,2,3,4ーテトラチオラン骨格に関して数多くの新規な知見を得ることができた。現在、同様の手法を用いた環状ポリセレニドの合成を行うと共に、今回得られたかさ高い置換基を有するテトラチアメタロランからの脱カルコゲン化により、立体的に保護されたシランチオンやゲルマンチオン等の14族元素ーカルコゲン元素二重結合化合物が生成可能と考えその合成単離について検討中である。また、先に合成したArMX_3及びAr(Mes)MX_2(M=Si,Ge;X=F,Cl)については、各種金属試剤を用いた還元的多量化反応による14族元素間の多重結合の生成を検討中である。
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